はじまりの日

夏になる少し前、トミさん(仮)にであいました。

トミさんは90代でひとり暮らし。最初は、猫を病院に診せたいので一緒に連れて行ってほしいとの依頼でした。

初めての面談の日、私は緊張していました。迎えたトミさんの「あがらんね~。」というゆっくりとした声と笑顔にホッとしました。

家の前には生まれて1ヵ月たたないほどの小さな子猫たちが数匹じゃれ合っていました。

よちよちウロウロする子猫たちを踏まないように気を付けながら部屋の中へ上がります。

お話を始めると、トミさんから出てくるのは年金や介護保険のお金のこと、泥棒からお金を盗まれてしまったこと等々、思い出して怒りや悔しさが込み上げてきます。

猫の話をしていてもトミさんの昔の話をしていても好きな食べ物の話をしていても、ふつふつと怒りが沸き何度も何度もお金の話に。

「トミさん、悔しいね。信じとったのにバカにされたみたいで腹も立つね。」そう言うと落ち着いたトミさん。

ひたすらお金の話ばかりになることに不安も感じながら、最初の「あがらんね~。」の言葉には、人と関わることが好きなのが表れているように思えて、これからのトミさんのと関わりは楽しみに感じていました。

そして面談の翌日に動物病院へ行くことも決まり、この日からトミさんストーリーのはじまりです。